走ることが好きになったきっかけ
ぼくは山田真樹。走るのが大好きな、デフ陸上の選手です。
中学1年生のとき、東日本大震災がありました。お母さんはイギリス出身で、地震のない国で育ったため、とてもこわがって、「イギリスに帰りたい」と言い出しました。そこで、ぼくも一緒に、1か月だけイギリスに行ったんです。
イギリスではほぼ毎日、公園やバッキンガム宮殿のまわりを、30分くらいジョギングをしていました。日本に帰ると、なんと体力テストでトップになったり、陸上大会で1位になれるくらいに、いつのまにか足が速くなっていたんです!イギリスから、運命を変えてくれる神様がついてきたんじゃないかなって、自分では思っています(笑)。
世界一の先に見つけた新しい目標


陸上はタイムが数字でわかるので、練習の成果がはっきりと見えるのがうれしいんです。本格的に陸上を始めてから、走る楽しさを感じられるようになりました。はじめは、きこえない人の中で一番になれたらいいなと思っていたけど、デフリンピックで世界一になれて・・・。次は「聴者(きこえる人)」と戦ってみたくなったんです。
最初に聴者の大会に出たときは、とても大きな差を感じましたが、練習を続けていくうちに、少しずつ差を縮められるようになってきました。「どんなにがんばっても勝てない」という思い込みを壊すことができたと思っています。
教えることで、自分も強くなる
今、ろう学校で部活の指導をしています。子どもたちに教えることで、それが自分のためにもなっています。たとえば、「もも上げ」をするとき、手でひざをおさえるより、もものつけねをおさえたほうが足を動かしやすいんです。こういうことを言葉で説明できるようになりました。それまでは「こうやるといい」っていう感覚があっても、上手く言えなかった。でも今は、どうしたら伝わるかを考えるようになって、勉強することの大切さもわかりました。
陸上以外で学んだ「再現力」
ぼくはパントマイムや役者としても活動しています。小学生のときに体験して、全身を使って気持ちを伝える面白さに驚きました!
2023年5月には、「きこえる人」を演じるお芝居に出演しました。このお芝居では、きこえないぼくがきこえる人になりきって演じることがテーマでした。例えば、見た目はきこえる人でも、「どこかちがう」というモヤモヤした感覚。そのはっきりしない気持ちを、観ている人にも感じ取ってほしかったんです。
この経験を通じて、自分に「再現力」が足りないと気づきました。陸上競技でも、毎回同じように最高の走りをすることが大切。それが本当の強さだと感じています。
「聞く」と「聴く」のちがい
ぼくが大事にしているのは、「聴く」という心の持ち方です。
「聞く」は音を耳でキャッチすること。でも「聴く」は、「耳+目+心」で相手の話を受け止めることだと思っています。
目で見て、心のドアが開いてるかを感じる。それは手話じゃなくても、ジェスチャーやスマホでもできること。大切なのは気持ちです。
東京2025デフリンピックでは、そんな「伝え合う力」も広めたいと思っています。
みんなへのメッセージ
みんなに手話をおぼえてほしい、とは思っていません。だけど「どうしたら伝わるかな?」と考えてくれること、それがうれしいんです。「わからない」で終わらずに、文字に書いてみたり、想いを伝え合おうとトライしてみてほしいです。
ぼくはまた、金メダルを取ってキラキラした自分にもどりたい!そして、今まで支えてくれた人たちに「ありがとう」を伝えたいです!