HERO for Kids:ヒーローずかん

2025.08.01

「アスリート」と「表現者ひょうげんしゃ」の二刀流にとうりゅう

山田やまだ 真樹まき選手|デフ陸上りくじょう 短距離走たんきょりそう

走ることが好きになったきっかけ

ぼくは山田やまだ真樹まき。走るのが大好きな、デフ陸上りくじょうの選手です。

中学1年生のとき、東日本大震災ひがしにほんだいしんさいがありました。お母さんはイギリス出身で、地震のない国で育ったため、とてもこわがって、「イギリスに帰りたい」と言い出しました。そこで、ぼくも一緒に、1か月だけイギリスに行ったんです。

イギリスではほぼ毎日、公園やバッキンガム宮殿きゅうでんのまわりを、30分くらいジョギングをしていました。日本に帰ると、なんと体力テストでトップになったり、陸上大会りくじょうたいかいで1位になれるくらいに、いつのまにか足が速くなっていたんです!イギリスから、運命を変えてくれる神様がついてきたんじゃないかなって、自分では思っています(笑)。

世界一の先に見つけた新しい目標


提供ていきょう一般社団法人いっぱんしゃだんほうじん日本にほんデフ陸上競技協会りくじょうきょうぎきょうかい

陸上りくじょうはタイムが数字でわかるので、練習の成果がはっきりと見えるのがうれしいんです。本格的ほんかくてき陸上りくじょうを始めてから、走る楽しさを感じられるようになりました。はじめは、きこえない人の中で一番になれたらいいなと思っていたけど、デフリンピックで世界一になれて・・・。次は「聴者ちょうしゃ(きこえる人)」と戦ってみたくなったんです。

最初に聴者ちょうしゃの大会に出たときは、とても大きな差を感じましたが、練習を続けていくうちに、少しずつ差を縮められるようになってきました。「どんなにがんばっても勝てない」という思い込みをこわすことができたと思っています。

教えることで、自分も強くなる

今、ろう学校で部活の指導しどうをしています。子どもたちに教えることで、それが自分のためにもなっています。たとえば、「もも上げ」をするとき、手でひざをおさえるより、もものつけねをおさえたほうが足を動かしやすいんです。こういうことを言葉で説明できるようになりました。それまでは「こうやるといい」っていう感覚があっても、上手うまく言えなかった。でも今は、どうしたら伝わるかを考えるようになって、勉強することの大切さもわかりました。

陸上りくじょう以外で学んだ「再現力さいげんりょく

ぼくはパントマイムや役者としても活動しています。小学生のときに体験して、全身を使って気持ちを伝える面白さにおどろきました!

2023年5月には、「きこえる人」をえんじるお芝居しばい出演しゅつえんしました。このお芝居しばいでは、きこえないぼくがきこえる人になりきってえんじることがテーマでした。例えば、見た目はきこえる人でも、「どこかちがう」というモヤモヤした感覚。そのはっきりしない気持ちを、ている人にも感じ取ってほしかったんです。

この経験けいけんを通じて、自分に「再現力さいげんりょく」が足りないと気づきました。陸上競技りくじょうきょうぎでも、毎回同じように最高の走りをすることが大切。それが本当の強さだと感じています。

く」と「く」のちがい

ぼくが大事にしているのは、「く」という心の持ち方です。

く」は音を耳でキャッチすること。でも「く」は、「耳+目+心」で相手の話を受け止めることだと思っています。

目で見て、心のドアが開いてるかを感じる。それは手話しゅわじゃなくても、ジェスチャーやスマホでもできること。大切なのは気持ちです。

東京2025デフリンピックでは、そんな「伝え合う力」も広めたいと思っています。

みんなへのメッセージ

みんなに手話しゅわをおぼえてほしい、とは思っていません。だけど「どうしたら伝わるかな?」と考えてくれること、それがうれしいんです。「わからない」で終わらずに、文字に書いてみたり、想いを伝え合おうとトライしてみてほしいです。

ぼくはまた、金メダルを取ってキラキラした自分にもどりたい!そして、今まで支えてくれた人たちに「ありがとう」を伝えたいです!