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デフバレー・長谷山 優美|サムスン大会決勝で感じた応援の熱気を、東京でもう一度感じたい。

2023.09.29

ソフィア2013デフリンピックでは銀メダル、サムスン2017デフリンピックで金メダルを獲得したデフバレーボール女子日本代表。得意の速攻を活かし、抜群のチームワークで東京2025デフリンピックでも金メダルを目指しています。15歳から代表チームでプレイをする長谷山優美選手に、バレーボールへの思いや現在のチームの特徴、普段の生活で大切にしていることなどを聞きました。

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長谷山優美(はせやま・ゆうみ)
2000年静岡県生まれ、神奈川県育ち。小学部から高等部まで神奈川県立平塚ろう学校へ通う。中学1年でバレーボールを始め、15歳で日本代表チーム入り。サムスン2017デフリンピックで金メダルを獲得。一般企業に就職し、働きながら日本代表選手として活動。

 

バレーボールのおもしろさに目覚めたのは、「もっと上達したい」と思ったとき

――中学の部活でバレーボールを始めたとのことですが、きっかけを教えてください。

当時、実は野球部に入ろうと思っていました(笑)。母やいとこがソフトボール、祖父が野球をやっていたこともあって、野球は身近なスポーツでした。そんな中でバレー部に入部したのは、先輩からの強い誘いがあったから。私は当時160cmと身長が高い方だったので誘われたのだと思います。

小さいときから体を動かすのが好きで、友達と一緒にヒップホップのダンス教室に通ったり、遊びで野球やバレーボールをやったりしていましたが、体形はどちらかというとぽっちゃり。お菓子を食べることが大好きでした。でも、バレーボールを始めたら「もやし」と呼ばれるくらい痩せました。練習がハードな部活だったんです。

――ハードな部活を続けられた理由はなんだと思いますか?

負けず嫌いな性格だからだと思います。バレー部の同級生に、同じ日本代表の中田美緒選手がいるのですが、私よりも運動神経がよくてどんどん上達して、先にスタメン入り。同じポジションではないのですが、すごく悔しいと感じたんです。その思いが原動力となり、苦しくてもやめなかったのだと思います。

デフバレーボール女子日本代表の青いウェアを着る長谷山選手。

――長谷山選手が日本代表に招集されたのが中学3年生、15歳のときとのこと。当時のことを覚えていますか?

代表にはそれほど興味はなかったのですが、その思いが変わったのが中学3年生でJOCジュニアオリンピックカップの代表選考会に参加したときです。それまではろう学校の選手たちとプレイしていたこともあり感じなかったのですが、聴者の選手も参加する選考会で、まわりのレベルの高さに気づきました。うまい選手はたくさんいて、自分はまだまだ。「もっと上達したい」と思ったときに、バレーボールのおもしろさに目覚めました。そうして練習に励んでいると、宗田光博監督から「日本代表の合宿に参加しないか」と声をかけていただいたんです。

――どのくらいのペースで練習をしているのですか?

日本代表としては月に1〜2回、全国からやってくる大学生から20代後半のメンバーとともに、2〜3日の合宿をしています。場所は兵庫県神戸市や東京都、沖縄県など。個人としては、土日や祝日に練習をし、空いた時間でジムに通ったりしています。

コミュニケーションにおけるチームのルールは「わからないままにしない、わかるまで話す」こと。試合中はボールがアウトしたときなどに時間ができるので、目を合わせて手話や口話、身振り手振りを使いながら話し合います。また、合宿中の夜のミーティングでは、みんながちゃんと理解しているかどうかを改めて確認しながら、膝をつき合わせて話をしています。バレーボールはチームスポーツなので、コートの外でも先輩や後輩関係なく話しかけるようにして、みんなの気持ちを大切にしながら、コミュニケーションにおける壁をなくすようにしています。

サムスン2017大会で金メダルを獲得し喜ぶ女子日本代表。雰囲気のよさがこの写真からも伝わる。(写真:長谷山選手提供)
狩野美雪監督(左端)も手話を交えながらコミュニケーションをとる。より円滑なコミュニケーションが取れるように手話通訳の岡田直樹さん(狩野監督右の男性)も帯同している。

見ている人たちが応援したくなるようなチームプレーを目指す

――今の日本代表の特徴を教えてください。

チームとしては速い攻撃スタイルを目指しています。全体的に身長が低いので、サムスン2017大会でやっていたような大きなトスを上げてスパイクを打つスタイルでは、ブロックで止められてしまう。そのため、低くて速いトスを上げ、相手のブロックが間に合わないようなタイミングで攻撃につなげる形を得意としています。

私のポジションはミドルブロッカー(MB)で、相手の攻撃に対してブロックにつくのが大きな役割。このポジションは世界的に見て背の高い選手が多い中、166cmの私がブロックして直接点を取ることは難しいのですが、ワンタッチを取って味方の攻撃につなげたり、攻撃ではたくさん動いて相手チームを翻弄してブロッカーを引きつけることを意識しています。

2023年7月に行われた代表合宿で、日本大学と行った練習試合の一コマ。ブロックをする長谷山選手(左)。

――デフバレーボールを初めて知った人に向けて、注目の選手を教えてください。

ぜひ全員の選手に注目してほしいのですが、強いてあげるなら1人目は、梅本沙也華選手。私の2つ下で大学2年生。ポジションはレフト(OH〈アウトサイドヒッター〉)でエースを担っています。ジャンプ力があり、パワフルなバレーが特徴です。見ていて気持ちがいいほどのすごいスパイクを打ちます。攻撃も守備も兼ね備えている注目選手です。

2人目は、ライト(OP〈オポジット〉)の平岡早百合選手。私より身長が低いのですがパワーがあり、相手のブロックを吹き飛ばす力のあるスパイカーで、梅本選手とは違う点の取り方をします。彼女にも注目してほしいです。

3人目は、私の幼なじみでもある中田美緒選手。自在にトスを上げられるセッター(S)です。チームとしていろいろな攻撃ができるのも彼女のトスのおかげです。

現在のデフバレーボール女子日本代表。「お互いに言いたいことを言える関係になっている気がします」と長谷山選手。左から梅本 沙也華、梅本 綾也華、尾塚 愛実、長谷山 優美、安藤 仁美、佐藤 愛莉、京谷 美遥、平岡 早百合、高浜 彩祐生、石原 美海、中田 美緒、栗林 愛美(この日は2名の選手が不在)。

――今後の目標をお願いします。

東京2025デフリンピックで金メダルを獲得することです。前回、2021年のカシアス・ド・スル2021大会では2連覇を目指していましたが、日本選手団内の新型コロナ感染を受けて全競技を棄権することに。東京ではリベンジの意味でも金メダルを取りたいです。そのために個人としては、少しでも早く相手の攻撃を止められるよう速い動きやジャンプ力を身につけてチームに貢献することが目標。チームとしては、1本目のレシーブの質を高めて、いい攻撃につなげられるようにしていきたい。そして、見ている人たちが応援したくなるようなプレーを目指します。

サムスン2017大会の決勝では、1点決めるごとに会場の盛り上がりが大きくなっていくのがわかり、振動なのか雰囲気なのか熱気なのか、みなさんの歓声をとても強く感じたのを今でも覚えています。東京大会でも、みなさんにまた応援してもらえるよう技術を磨き、びっくりするようないいチームになるよう研鑽を積んでいくつもりです。

 

仕事とプライベートで気持ちを切り替え、時間を上手に使えるようにがんばっています

――ここからは、選手としてではなく、長谷山さん個人として、普段の生活で大切にしていることなどを尋ねていきます。バレーボール以外で好きなことはなんですか?

絵を描くこと、ハンドメイドの小物づくりが好きです。のカシアス・ド・スル2021大会のときは、みんなのお守りをつくりました。最近は友人の結婚式のため夫婦の似顔絵を水彩で描いています。中途半端で終わるのがイヤで納得するまで描き直す性格なので、結果、朝になって寝不足になる……なんてこともたびたびあります(笑)。何ごとも最後までやりとおすことが長所でもあるのですが、反面、あきらめが悪いのが短所でもあるかもしれません。

左/カシアス・ド・スル2021大会の時に、チームのみなさんにプレゼントしたお守り。右/長谷山選手の癒しになっている、愛犬のれおくん(右)とろんくん。(写真:長谷山選手提供)

――休日は何をして過ごすのが好きですか?

私はアスリート採用ではないので月〜金曜は働いて、土・日曜を練習日に当てているので、一日休日ってあまりないんです。でも、自分で休みの日を決めて体調管理をするようにはしています。アウトドア派なので、山や川、海がある場所に行ってリフレッシュをしたり、グルメツアーをすることでストレス発散したりするのが好き。今年はあまり機会がなかったですが、5月には友人と一緒に石川県に旅行に行きました。砂浜をドライブできることで有名な千里浜にも行って運転をしたり。気持ちよかったです。

左/2023年5月の石川旅行より、千里浜なぎさドライブウェイにて。右/普段から仲の良いデフ卓球の亀澤理穂選手(右)とSUP体験へ。(写真:長谷山選手提供)
バイクも大好きという長谷山選手。愛車は『カワサキモータースジャパン』の「Ninja 400」。(写真:長谷山選手提供)

――仲のよいアスリートはいらっしゃいますか?

デフ卓球の亀澤理穂選手です。サムスン2017大会で出会って以来、今ではご自宅に泊まりに行くほど。現在、4歳になる娘さんがいるのですが、生まれたときから見守っています。亀澤選手は、台北2009大会のときから4大会連続でデフリンピックに出場していて、東京大会もおそらく出場されると思います。友人としても大好きな方ですし、先輩アスリートとしてはもちろん、現役選手を続けながら子どもを産んで育てていることにも尊敬しています。

デフ陸上(やり投げ)の川口穂菜美選手とは以前ジムに一緒に行って、トレーニングの方法を教えてもらったりしていました。

――週5で働いて、休日はバレーボールの練習に励む。体力、時間の調整が大変そうですが意識されていることコントロールする方法などがあれば教えてください。

社会人になったばかりの頃、仕事がうまく回らず残業が続いたことで体調を崩し、トレーニングの時間も取れなくて、代表合宿に参加してもついていけない時期がありました。その焦りでさらに仕事にも影響が出てしまっていたと思います。
そのときはきちんと病院に行き、周りの人にアドバイスをもらい、「仕事のときは仕事、バレーボールはバレーボール」と分けて考え、時間を使うようにしました。上司に恵まれているので、ひとりで抱え込まずに相談するようにもしたことで気持ちが軽くなり、だんだんとよくなりました。

高校生までは時間割があって、「授業が終わったら部活」というようにスケジュールが決まっていますが、社会人になると時間の調整を自分でしないといけない。無理をすると体調を崩してしまうので、気持ちの切り替えと時間の使い方って大切だなと実感しています。

ひとつひとつの質問をしっかりと考え、ていねいにインタビューに答えてくれる反面、照れながらも楽しそうに撮影に応じてくれた。

——今年8月、長谷山選手は、競技スポーツにおける世界大会等で優秀な成績を収めた選手に送られる文部科学大臣顕彰で表彰されました。どんな気持ちでしたか?

初めての表彰は、サムスン2017大会で金メダルを取ったときなんです。今回はカシアス・ド・スル2021大会で、途中棄権となったとはいえ結果4位だったことが認められての表彰でした。授賞式には、テレビで見るような有名な選手もいて、周りから見たら私も同じアスリートなのですが、「差」のようなものも感じました。もちろん選手として誇りは変わらないですが、自分たちはアスリート社員ではなく平日は働き、週末にバレーをしています。栄誉ある賞なのでもっとアピールしたいと思いつつ、デフバレーの選手もアスリートとしてトレーニングしやすい環境をつくるにはどうしたらいいのかということも考えるきっかけになりました。

———最後に、読者へのメッセージをお願いします。

デフリンピックの認知度はまだまだ低いので知らないかたもたくさんいると思いますが、2025年の東京大会を機に、デフアスリートだけの大会があることを多くの人に知ってもらいたいです。

東京大会の前哨戦として、2024年に沖縄県で開催されるデフバレーボール世界選手権に日本代表が出場します。2025年までにほかにもいろいろな競技の大会がありますし、ぜひ興味をもっていただき、東京2025デフリンピックをみんなで応援してくださるとうれしいです。

「ごはんも甘いものも、小さい頃からずっと大好きです!」という長谷山選手の貴重なオフショット。(写真:長谷山選手提供)

日本デフバレーボール協会:http://www.jdva.jp/
デフバレーボール日本代表女子チーム
Instagram:jdva_woman
デフバレーボール男子日本代表チーム
Instagram:jdva.men

photographs by Hiroshi Takaoka
text by Kaya Okada

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