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デフサッカー・岡田 拓也 | W杯でMVPに輝いた日本のエースは、双子の兄と世界一を目指す

2023.12.27

2023年9月23日から10月7日まで開催された第4回世界ろう者サッカー選手権大会(デフサッカーワールドカップ)で、男子日本代表は過去最高の準優勝という成績を収めました。その立役者となったのが7ゴールを決め、大会MVPに輝いた岡田 拓也選手です。テクニックとフィジカルの強さを生かしたドリブル、類まれな決定力は世界を席巻。また双子の兄・岡田 侑也選手も日本代表で中心選手として活躍しています。そんなデフサッカー界のエースに、東京2025デフリンピックにかける思いや、今の日本代表について語ってもらいました。

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©JDFA

岡田 拓也(おかだ・たくや)
1996年埼玉県生まれ。越谷フットボールクラブ所属。
中央学院大学在学時からデフサッカー日本代表に選出され、その高い技術・能力で当時からエース級の活躍を見せる。5年ぶりの国際大会となった2023年W杯では、延長戦でのハットトリックなど輝かしいパフォーマンスから大会MVPに選出。初の自国開催となる東京2025デフリンピックで、「あと一つ」となった世界の頂点を目指し日本代表をけん引する。

 

ネイマール選手のプレーや動きを参考に

――サッカーを始めたきっかけを教えてください。

小学校4年生のときに、友達に誘われたことがきっかけです。それまでは水泳をやっていて、サッカーに興味はなかったのですが、すぐにハマってしまいましたね。サッカーはボール1つでみんなと繋がれますし、チームでゴールを目指すところに魅力を感じました。

――サッカーを始めたころ、どのポジションをやっていましたか?

小学校5年生になるまで1年間はGKをやっていたのですが、センスがなくて(苦笑)。それで兄がGKになって、僕は攻撃的なポジションに移りました。

――好きな選手やお気に入りのチームはありますか?

昔から好きなのが、ブラジル代表のネイマール選手です。見ていて楽しい選手が好きで、いつもネイマール選手のプレーや動きを参考にしたり、真似したりしていました。お気に入りのチームはFCバルセロナですね。僕がサッカーを始めたときは当時所属していたロナウジーニョ選手が全盛期でした。彼も見ていてすごく楽しい選手でしたし、ネイマール選手もその後、FCバルセロナに加入したこともあり、ずっと見ている感じです。

見ていて楽しいプレーをする選手が好きだという

――デフサッカーにトライすることになったきっかけは?

現在のデフサッカー日本代表でチームメイトの林滉大選手から、大学2年生のときに誘われたのがきっかけです。それまではデフサッカーの存在はまったく知らなくて、実際に関わることになったのはここが初めて。デフサッカー日本代表が2016年イタリアW杯に向けた強化に取り組んでいた時期だったこともあり、その一環として代表活動に参加していった形でしたね。

 

元プロ選手から学んだメンタルの大切さ

――これまでの競技人生で転機となった出来事はありますか?

3年前まで僕は、埼玉県川口市からJリーグ入りを目指しているアヴェントゥーラ川口に在籍していました。当時のチームには元プロ選手もいたのですが、メンタルの持ち方や考え方、フィジカルの違いに衝撃を受けました。そのときに、「足元の技術を伸ばすのには限界があっても、フィジカルには限界がないから、そこだけは絶対に鍛えたほうがいい」というアドバイスをいただきました。元プロ選手がいる環境でもまれた経験は、大きな転機になったと思っています。

――メンタルの違いというのは具体的にどんなものでしょうか?

Jリーグでは大勢の観客がいる中でプレーするので、1つミスしたら観客からブーイングが飛びます。その中でまた次のプレーをしなければいけない。平常心を保ってプレーし続けるメンタルを持っていないと、プレー全体に影響が出ると言われました。アヴェントゥーラ川口では、J3のヴァンラーレ八戸でプレーしていた経験もある酒井大登選手と一緒だったのですが、メンタル面ですごく影響を受けましたね。「心の基盤が築かれていないと、どこに行ってもプレーは変わらない」という言葉は自分の中にしっかりと刻み込まれていて、戒めにもなっています。

「心の基盤が築かれていないと、どこに行ってもプレーは変わらない」。
元プロ選手からの言葉をしっかりと自身に刻み込んでいる

――メンタルを鍛えるためにやっていることはありますか?

心の基盤は人それぞれ強さが違うので、こればかりは経験の積み重ねでしかつくれないものだと思っています。それこそ大学では練習が厳しくて、何度もサッカーで挫折してしまいそうになりました。ただ自分にとって辛いことや嫌なことから逃げないで、乗り越えていくという積み重ねがメンタルを強くしていくのかなと思っています。

 

世界王者のトルコ戦でつかんだ自信

――準優勝した先日のW杯でも厳しい場面があったと思います。そういうときでも平常心を保てましたか?

正直きつかったですね。特にグループリーグの2戦目でイランに、3戦目でフランスに敗れて2連敗となったときはメンタル的にすごく厳しかったです。「もっとこう動けばできるのに」ということを仲間に伝えられないもどかしさや、試合を決め切ることができなかった自分の決定力のなさに、苛立ちがありました。ただ、日本代表のメンバーは強いメンタリティーを持った選手たちが揃っているので、すぐにそれぞれ鼓舞し合いながら、「次(決勝トーナメント1回戦)、世界王者のトルコと戦えるなんて最高じゃないか」と切り替えて臨むことができました。

グループリーグでは大勝した初戦のカメルーン戦を除き、厳しい試合が続いた
©JDFA

――トルコ戦からの決勝トーナメント4試合で、岡田選手は6ゴールと爆発します。その要因は何だったのでしょうか?

トルコ戦の終了間際に決めた1点が大きな自信になりました。グループリーグの2戦目、3戦目と1点も取れず、自分のふがいなさや責任を感じていました。ただ、世界王者のトルコ相手にゴールを決めたときに、これまでの試合を忘れるくらい自信が溢れて、自己肯定感も高まったんです。それを維持できたことが爆発的な得点力に繋がったのかなと思います。

――準決勝のエジプト戦では延長戦だけでハットトリックを達成しました。

自分でも初めての経験でした。ゴールを決めるのが遅すぎて申し訳なかったくらいです(笑)。その試合では僕に対するマンマークが厳しくて、少し移動するだけでも付いてくる状態でした。もうあとは動き回ってどちらが先にバテるか、気持ちの勝負だなと。そうしたら延長戦で相手がバテて付いてこられなくなっていたので、一気に勝負をつけたという感じでしたね。

――決勝ではウクライナに敗れてしまいましたが、ご自身では7ゴールを挙げてMVPと大活躍でした。どのような大会だったと感じますか?

日本男子のデフサッカーにおいて、その歴史を塗り替えることができたのはとても嬉しく思います。ただ、結果として嬉しいよりも悔しい方が勝ってしまった大会でした。おそらく今後のキャリアを通しても、一番印象に残るんだろうな・・・。というのも、今回出場したメンバーの半分以上が初の国際大会だったんです。経験の浅い選手が多い中、コロナ禍を経ての5年ぶりの国際大会で、決勝ではチームは満身創痍でした。チームの成長を感じられる場面は多かったですが、振り返ると「もっとやれたのでは・・・」と世界一まであと一つに迫ったこともあり、そういう意味でとても印象に残る大会だったなと思います。

決勝でもゴールをあげ、最後まで戦い抜いた
©JDFA
W杯では7ゴールを決め、MVPに輝く。岡田選手は「キャリアで一番印象に残る大会になった」と語る

デフリンピックへの思いが大きく変わった

――東京2025デフリンピックでは個人としても、チームとしてもマークされる立場になると思います。今後はどういうところをより高めていきたいですか?

11月の合宿で清水エスパルスの強化部長の方に、W杯のエジプト戦とウクライナ戦の試合分析をしてもらったところ、緩急をつけた動きやドリブルが少ないと言われました。個人としてはそういった動きをもっと高めていきたいなと思います。チームとしては、やはり経験ですね。最低1年に1回は海外で試合をする経験を積むべきだと感じています。あとは、それぞれの所属チームでとにかく試合に出場してレベルを上げること。一人ひとりが所属チームで一番うまい選手であってほしいと思っています。

緩急をつけたプレーを今後はもっと高めたいという

――サムスン2017デフリンピックは日本代表として史上初の勝利を挙げながら、予選リーグ敗退に終わりました。デフリンピックにはどのような思い入れがありますか?

初勝利を挙げた試合で、僕はケガをして途中で退いてしまいました。今だからこそ言えるのですが、当時は大学生でデフリンピックやデフサッカーの価値を分かっておらず、深い思い入れがあったわけではなかったんです。ただ社会人になって、デフアスリートとして講演をさせていただく機会もあり、引退された方々からも様々な意見や価値観をうかがいました。そこで「あのとき(サムスン2017大会)をもっと大事にするべきだった」と後悔したんですね・・・。それ以来、デフリンピックへの思いは大きく変わりましたし、責任も感じるようになりましたね。

――東京2025デフリンピックで期待していること、楽しみにしていることはありますか?

今回のW杯で準優勝という結果を出して、たくさんの方から連絡や激励の言葉をいただきました。「デフリンピックを観に行きたい」という連絡も多く、そういう方々でJヴィレッジ(福島県)の観客席を埋め尽くせたらいいなと思っています。あとは海外の選手からも「日本のおいしい料理や、観光名所を教えて」と言われています。フィールドの中ではバチバチに戦い、外では楽しい時間を過ごせればいいなと思っています。

サムスン2017大会でのオフの様子。
現在の代表チームを率いる植松隼人監督の姿も
(写真中央。当時はコーチとして帯同)

車やバイクで一人の世界に入るのが好き

――ここからは岡田さんのパーソナルな面をお聞かせください。休日はどのように過ごされていますか?

シーズン中は週5で練習、残りの2日は休みなのですが、1日はケアで整骨院に行き、もう1日は一人で過ごします。バイクと車を持っているので、一人でドライブやツーリングをして、行った先でNetflixやYouTubeを見て過ごすことが多いです。車のサンルーフを開けてのんびりしていると気持ちいいんですよね。
シーズンオフは家族と過ごしています。双子の兄に娘が生まれたので、会いに行ったりしています。

――どんな動画を見ているんですか?

Netflixでは『ONE PIECE』などアニメを見ることが多くて、YouTubeでは投資バラエティ番組の『令和の虎』にハマっています。あのガチンコ感がたまらないんです(笑)。あとは世界の有名選手のプレー映像をよく見ています。

ドライブをして、車の中でNetflixやYouTubeを見るのがオフの楽しみ

――ご家族で過ごされるときは何をされるのですか?

食事に行ったり、車で遠出をしたりします。先日は新宿にあるおいしいパン屋さんでランチしました。日本代表になってから家族の大事さを痛感していて・・・。それまでは正直そこまでだったのですが(苦笑)、家族のみんなが支えてくれているおかげでここまで来ることができたと思っているので、今ではとても感謝しています。

――ご自身の性格はどのように分析していますか?

自分の好きなことに対しては「一切の妥協を許さない」性格ですね。一週間のルーティンがあるのですが、火曜日から金曜日は必ず練習があるので、その日はどんな誘いがあっても断ります。それ以外にも、サッカーを第一に日々過ごしていますし、小さなことでも妥協せずに取り組んだ結果、先日のW杯の成績にもつながったんじゃないかなと思っています。
あとはバイクが好きで、カスタマイズしたりもしています。バイクに乗っているときは自分一人の世界に入れますし、風を感じて走るのが最高ですね。先日は軽井沢や箱根ターンパイクにも行きました。

 

日本代表のおすすめの選手は・・・?

――双子のお兄さん(侑也さん)がいらっしゃいますが、性格は似ているのですか?

いえ、まったく似ていないです(笑)。僕はマイペースですが、兄はすごく真面目なんです。シーズンオフの遊びの誘いも全部断っちゃうくらい。兄の性格は父親似なんだと思います。父は元々競輪の選手で、アスリートとして第一線で活躍していたので、そういう真面目さが似ているところかなと思います。

――日本代表のおすすめの選手を紹介するならどなたですか?

一人はあまり言いたくないのですが・・・(笑)、兄の岡田侑也選手と林滉大選手ですね。
侑也は本当に何でもできる万能プレーヤーという感じです。どこのポジションも高いレベルでこなせて、日本代表のキャプテンも務めたこともあり、人間性もしっかりしています。
滉大はドイツで数年プレーしていました。誰でもできることじゃないですし、言語の壁を乗り越えてやっていたので、すごく尊敬できます。現に欧州のプレースタイルや情報を教えてくれるので、今の日本代表にも役立っています。プレーもとても攻撃的で、彼のおかげで得点が生まれることも多いですね。

双子の兄・侑也選手(写真左)。見た目はそっくりでも本人曰く「まったく似ていない(笑)」

――選手生活を全うされた後のキャリアは、どのようにイメージしていますか?

自分は今、外資系の企業で働いていて、英語も勉強しています。それに加えて国際大会にも出場した経験もある。いずれはきこえるきこえない問わず、子供たちにサッカーを教えたいと思っていますし、英語を使って、デフサッカーの現場で通訳をできるような存在になれたらいいなと考えています。手話と英語を生かして、国際手話も学んでいったら選択肢が広がりますし、そういったキャリアも良いなと思っています。

――最後に東京2025デフリンピックを楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。

2025年に日本で初めてデフリンピックが開催されます。
デフサッカーだけでなく、たくさんのデフスポーツが行われるデフリンピック。歓喜の瞬間を日本中のみなさんで共感できるように、一緒に盛り上げていきましょう!
たくさんの応援をよろしくお願いいたします!!


Instagram:takuya.10_official

text by Moritaka Ohashi
photographs by Kiyoshi Sakamoto

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